ホーム > 花の舞だより > 花の舞あの人この人 > 第8回 製造部製品課主任 辻屋竜行

この「花の舞あの人この人」が始まる前は「THE蔵人 酒づくりの主役たち」というものをやっており、蔵人の紹介をしました。その当時、蔵人でありながら、紹介直前に社内の異動で他の部署へ移り、とうとう紹介できなかった人がいます。それが、今回登場の辻屋竜行(つじや・たつゆき)さんです。一年間の御無沙汰。ようやく話しが聞けるぞと、勇んで会いに行きました。

辻屋さんの花の舞入社は平成21年秋。蔵人として入社しました。それまで勤めていた会社は高圧洗浄機のメーカー。本社は東京でしたが浜松に工場があったのです。「元々は技術系で、機械設計をやりたかった」ということですが、「技術者も営業を知らなくてはいけない」ということで営業をやることになり、とうとうそのまま約8年間営業マンとして働いていたということです。
高圧洗浄機から日本酒へ、まったくの畑違いですが、再就職する際には「酒づくりには興味がありました」と言います。実際、入社して蔵で働いた感想は「体力的にはきつかったですが、楽しかったです」。花の舞では毎年、新年を迎えると大吟醸づくりが行われます。その工程のほとんどが伝統にのっとった手作業です。筆者は毎年その工程のいくつかを撮影しているのですが、平成22年に撮影した写真にはしっかりと辻屋さんが写っています。その時の大吟醸づくりの感想を聞くと、「大吟醸は手づくりで、新酒づくりとも違いますから貴重な体験をしたと思います。とにかく手間がかかっています。子供を育てるような感じですかね。だから、出来上がった時は感動しました」。
蔵人として日々酒づくりに励んでいた辻屋さんですが、丸一年が経過する頃、会社から製品工場へ異動の話しがありました。「できれば蔵の仕事をしたかったのでその話は断りました」と言います。しかし、その後、土田杜氏に「ぜひ」と口説かれて引き受けたのでした。
花の舞の製品工場では蔵でつくったお酒を割り水してアルコール度数を既定の数値に調整したり、火入れ(加熱殺菌)したりして瓶につめ、検査、ラベル貼りなどを行って商品とするまでの作業を行っています。辻屋さんが担当する仕事を聞くと、「一日の予定をつくり、ラインを動かすことです」。一言でいえばそうなるのでしょうが、よく聞いてみると、とてもそんなに単純明快ではないことが分かりました。例えば、来月、どんな酒がどれくらい出荷されるのかは、辻屋さんが言うように「誰にも分かりません」。そんな状況で、在庫を切らさないように、増やさないように、商品をつくる、それが辻屋さんの仕事なのです。いったいどんなふうにしているのでしょう。「営業からはだいたいの予定を出してもらいます。そして、コミュニケーションをとって売れ筋を確認したり、商談の進捗状況を聞いたりして出荷の予測を立てています」。在庫を切らさないためには、さらに、勘や経験も必要だと言いますが、実は、この生産及び管理の現場責任者を長く務めた人が近く定年退職を迎えるため、今、辻屋さんはこの人と引き継ぎを行っている最中なのです。
生産現場では効率良く、たくさんつくることが求められます。しかし、現場にも事情があります。「製造ラインというのは型替が頻繁にはできないのです。お酒の瓶は1.8リットル、720ミリリットル、300ミリリットルなどサイズがいくつかありますが、瓶の大きさが変わると洗瓶機や瓶詰機、ラベルを貼る機械も替えなくてはいけないので、そこをよく考えてやらなくてはなりません」と辻屋さんは言います。
そのため、1.8リットル瓶をラインで流すときは、その日は一日ずっと1.8リットル瓶を流すのだそうです。お酒の量についても同様で、非効率にならないように最低ロットが決められており、同じお酒を少量だけ、例えば数十本だけ流すことは難しいのだそうです。また、ときどき、特殊なラベルというか飾りを付けた瓶を見かけますが、あれは、機械では対応できないため、製品工場から少し離れたところに女性部隊がいて、一つ一つ手で貼っているのだそうです。なるほど、いろいろな特殊事情があったのですね。
辻屋さんは「私が担当するようになったら営業に製造現場の事情を理解してもらい、そして、協力してもらってできるだけ合理的にやりたいと思います」と、これからの方針を語ります。しかし、「でも、営業に言われると弱いんです」と苦笑い。どんなメーカーにも営業と製造現場の間にはこうした課題があるのでしょう。しかし、辻屋さんは「少しずつ変えていきたい」と考えているのです。
辻屋さんは地元浜北区の出身で現在34歳。独身。蔵にいた頃は休日が少なく、曜日もまちまちだったのですが、現在は会社のカレンダー通りに休めます。そこで、休日はどんなことをやっているのか聞くと、「社会人になってからバイクに乗っています。晴れていればたいがい一人でどこかに出かけています」。趣味は「大学生のときには友達とバンドを組んでベースを弾いていたのですが、今はライブを見に行くくらいですね」。今まで登場した人の中ではスポーツをやっていた、あるいは、釣りが好き、という人が多くバンドは初めて。その昔バンドをやっていた筆者は思わずいろいろなことを聞いて、しばし音楽談義を楽しんだのでした。
ところで、辻屋さんが蔵にいた時にはお酒は利いていたと思うのですが、製品工場でもお酒を利くことはあるのでしょうか。「たまに自分も割り水することがありますが、その時は酒を利いています。アルコール度数が1%違うだけで微妙に味が変わります」。私生活でも日本酒をたしなむと言います。そして、ややトーンを上げてこう言います。「日本酒を飲んでほしいですね。ビールやウィスキー、ワインに負けないと思います。日本の文化には必要なものだと思います」。
さて、最後に辻屋さんに生産現場の新しい実務責任者としての抱負を聞きました。「効率よく、安心安全な商品をつくることです。もちろん在庫を切らさないように。現場ではスムーズに作業を進めたいです。バタバタすると問題を起こしかねない。そのためには営業にも協力してもらい、難しいけど調整しながらやっていこうと思います」。もうすぐ師走。酒蔵は繁忙期を迎え、製品工場は夜までラインが動きます。もちろん、それは辻屋さんが立てた予定に従ったものであることは言うまでもありません。