月刊花の舞

〜月刊花の舞 目次〜


いま酒蔵では 日本酒はちっともむずかしくないのだ
土田杜氏の「なんでも答えます」 「山田錦」は食べてもおいしいか
利き酒に使う茶碗の底 キレイになったわけは、恋?
山田錦誕生物語り お便り紹介&募集
編集後記
花の舞 季節の便り

「いま酒蔵では」米焼酎の仕込み真っ最中


焼酎仕込み風景

 蔵では6月1日に日本酒の仕込みが完了し、引き続き焼酎の仕込みが始まっています。花の舞でつくる焼酎はもちろん地元米だけを使った米焼酎です。
焼酎も日本酒の一種ですから、その製造方法は途中までいっしょです。違うのは焼酎は蒸留酒だということ。お酒のもとになるもろみを圧搾・濾過したものが「清酒(日本酒)」。清酒、酒粕などアルコール含有物を原料に、蒸留したものが「焼酎」。さらに、その焼酎やもち米などを原料につくられる混成酒が「みりん」。日本酒にはこの三種類があります。
 焼酎はその製法(使う蒸留器の違い)によって甲類・乙類の二種類あります。連続式でつくられるのが甲類。純粋なアルコールに近いため、他の飲み物と割って飲むのがこのタイプです。
一方、単式蒸留によってつくられたものが乙類。本格焼酎と呼ばれているもので、焼酎本来の味を楽しむのに適しています。花の舞の焼酎はすべてこのタイプです。

静(アルコール分20度)阿茶の局(アルコール分25度) 麁玉の里(アルコール分40度

 花の舞の焼酎製造方法は減圧蒸留式という方法を採っています。これは原料のいいところを取り出せる方法で、最初からきれいな焼酎にできあがっています。口当たりの良い、スッキリとした飲み口の「静(しず)」や「阿茶の局(あちゃのつぼね)」、「麁玉の里(あらたまのさと)」でぜひお試しください。

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特集

夏だ、冷酒だ、生酒だ。


「生酒のうまさの秘密を探る」

 暑くなるとどうしても冷たいものが恋しくなります。夏の宵、おいしい肴をいただきながら冷やした生酒を飲む。その味は格別、清涼感も満点。昼間の暑さや仕事の疲れをしばし忘れさせてくれるささやかな夏のぜいたくです。
さて、生酒のそのうまさ、ただ単に冷やしてあるからだけでしょうか。そんなことはありませんね。やはり「生」にその理由がありそうです。そこで、夏を迎えた今号の特集として、生酒のうまさの秘密を探ってみたいと思います。

製造後一切火入れをしない酒が「生酒」
 そもそも、生酒、「日本酒の生」とはどんなものなのでしょう。通常の日本酒は製造後、火入れと呼ばれる加熱処理をしてからタンクに貯蔵し、出荷の瓶詰の際にも火入れをする。つまり、2回火入れ処理がされています。「生酒」というのは、文字通り製造後一切火入れをしない酒のことを言います。その他に、本来の意味で生酒ではありませんが、生酒の仲間には、製造後火入れをせず、出荷する時にだけ火入れをする「生貯蔵酒」というものがあります。吟醸酒はほとんどがこの生貯蔵酒です。逆に、製造後火入れをして貯蔵し、出荷の際には火入れをしない「生詰め」というお酒もあります。

一般の日本酒は殺菌のために「火入れ」する
 「火入れ」は殺菌のために行うもので、通常は63度から68度の温度で行います。酵素は55度もあれば失活できるのですが、火落ち菌という乳酸菌の一種を殺菌するためにはそれくらいの温度が必要なのです。
お酒ですからもともとアルコールが含まれていて殺菌効果はあるわけですから、100度まで上げなくても低温でも十分殺菌できるのです。
そのやり方は、ビールのように瓶詰してから所定の温度で温める方法もありますが、通常は熱い蒸気が通っている管にお酒を通して温めます。長い時間をかけずに20秒から30秒で済ませます。
温度が高すぎたり、長時間かけたりすると、味や香りに影響が出てしまうので、花の舞では万が一にもそうならないよう、自動的に温度と時間を調整する機械設備を整えています。この火入れは通常の日本酒に行われるもので、生酒にはいっさい火入れはしていません。

火入れ工程・生酒の濾過

生酒は火入れの代わりに濾過(ろか)する
 それでは、生酒に対しては何もしないのかというと、そんなことはありません。搾りたてのお酒にはうるみが残っていたり、製造工程でついたクセや色があるので、それを除去するために炭を使って炭素濾過をしています。ただ、これは、生酒に限らず、どんなお酒にもやっていることです。
生酒独自のものとしては、火入れの代わりに行う濾過(ろか)があります。お酒の中にはそれまでお酒をつくるために役立っていた酵素、例えば、麹(こうじ)が出すアミラーゼなどが残っています。それを除去するためにやるわけです。

花の舞は味優先のため、目の粗いフィルターを使う
 濾過はフィルターを通して行いますが、花の舞で使っているフィルターの網目は0.4ミクロン(1ミクロンは1ミリの千分の一)。大手メーカーでは限外濾過と言う、0.1ミクロン以下の超精密フィルターを使っているところが多いようです。
では、なぜ、花の舞は目の粗いフィルターをつかうのか。ここがこの特集のポイントです。目が粗いとフィルターを通過して入ってきてしまう酵素もあります。酵素はほとんどがタンパク質なのですが、酵素を全部除去してしまえば品質の変化が少なく、日持ちします。しかし、そうすることで失うものもあります。フィルターの目が細かいと味の成分や香りの成分も除去してしまうのです。花の舞が目の粗いフィルターを使う理由がそこにあります。

搾りたてがすぐ飲める花の舞いの生酒
 生酒に限らず、おいしいものは何でもそうですが、日持ちはしません。大手メーカーは全国の問屋さんへ出荷し、そこからまた販売店さんへ配達するわけですから、日持ちのことを優先して生酒をつくらざるを得ません。
しかし、花の舞は地元の酒蔵ですから、つくってすぐにお店にお届けすることができる。だから味を優先して生酒をつくることができるのです。
花の舞の生酒は今日瓶詰したものが明日にはお店に並んでいます。うまい生酒をすぐにご賞味いただけるのが花の舞の特長です。花の舞の生酒のラベルには製造年月日が記入されています。冷蔵庫に入れて保管していただければ、3カ月は大丈夫です。しかし、花の舞の生酒は鮮度が命ですから、できるだけ早めにご賞味ください。

吟醸生酒と純米生酒

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土田杜氏の

「なんでも答えます」


うまい酒をつくるために、最も重要なことは何でしょうか?
うまい酒づくりには低温長期間発酵が欠かせません。

土田杜氏 うまい酒づくりにはさまざまな条件が整わなくてはなりませんが、いい米、いい酵母、いい麹、それらが確保できたとなると後は低温で長期間発酵させることです。
酵母菌の増殖、発酵の最適温度は25〜30度くらいですが、この温度帯だときめが細かく、まろやかでフルーティーな香りの酒は期待できません。それが最高でも10度という低温の厳しい環境で30日間くらい発酵させると、米の中に微量に含まれているビタミン、脂肪、タンパク質を菌体に取り込んで、高級アルコール属といういわゆるフルーツの香りのような吟醸香を生成してくれます。だから、うまい酒づくりには低温長期間発酵が欠かせないのです。

仕込み風景

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日本酒なるほど講座

辛口、甘口、いろいろ試してみたいけど、どうやって選べばいいの?


甘みは糖分、辛さはアルコールから
 日本酒には甘口、辛口と呼ばれるように、飲んだときに甘く感じる酒や、辛く感じる酒があります。
日本酒の甘みは主にエキス分中に含まれるぶどう糖やグリセリンなどの糖分によるもので、一方の辛さはアルコールによるものです。一般的には糖分が多いと甘く感じる酒になり、少ないと辛く感じる酒になるのですが、アルコールの影響により、糖分が同じ量であっても、アルコール分の高い酒ほど辛く感じます。

「日本酒度」が甘口、辛口の目安
 さて、そこで、甘口、辛口をどうやって選んだらいいか、ということですが、びんのラベルにはっきりと「甘口です」あるいは「辛口です」と書かれていれば簡単に判断がつきますが、たいがいはそうはっきりとラベルには書かれていません。
では、どうするか。びんの裏側に貼られたラベルを見てください。そのどこかに「日本酒度」と書かれた数値があるはずです。(書いてないメーカーもあるかもしれません)。この日本酒度が甘口、辛口の目安になるのです。

水の比重をプラスマイナス0として、これより比重の大きい酒にマイナスをつけ、比重が小さい酒にプラスをつけています。比重の大きい糖分が多ければマイナスの数値が大きくなり、糖分が少なく、比重の小さいアルコール分が多ければマイナスの数値が大きくなります。つまり、−3、−5、−7とマイナスの数値が大きくなるほど甘口になり、その逆に、+3、+5、+7と数値が大きくなるほど辛い酒、ということになります。この日本酒度によって甘口、辛口の酒を選ぶことが容易になりました。

花の舞の酒の日本酒度(純米酒の場合)

「酸」が甘辛に微妙に影響を及ぼす
 しかし、これはあくまでも目安です。甘辛の感じ方には個人差があるとともに、日本酒に含まれている「酸」によっても味は左右されます。
日本酒にはコハク酸、リンゴ酸、乳酸などが含まれており、これらの酸が甘辛に微妙に影響を及ぼすのです。ラベルには「酸度」として記載されています(記載していないメーカーもあるかもしれません)。酸度とは日本酒に含まれる酸の量を表しており、数値が高いほど酸味が強いことを示しています。
花の舞の土田杜氏は「酸度が0.1上がると日本酒度がプラス10くらい上がった感じになる」と言います。これは、微妙な味の変化を感じ取る酒造りのプロの表現ですが、一般的に酸が多くなると味が多くなって、辛く感じるようになるのです。
「きれいな酒をつくろうとするとできるだけ酸は抑えたい。しかし、酸を抑え過ぎると熟成に向かない。また、酸が多過ぎると、酸味を感じ、舌に残る。少なすぎると淡麗すぎて物足りない」と土田杜氏が言うように、酸ひとつ取っても、酒づくりの難しさを感じさせます。酸に関して、花の舞としては「できるだけ抑えるようにしています」ということです。数値で表すとほとんどの酒が1.2から1.3となっています。

時代とともに変わる好み、今は「やや辛」が主流
 ところで、甘辛どちらの味が好まれるか、時代によってその傾向が大きく変化してきたようです。
明治時代には非常に辛口で酸味の強い酒が主流だったようです。大正時代にはその傾向が弱まり、昭和に入ると日本酒度は一気にマイナスに転じ、かなりの甘口になりました。ところが昭和も後半になるとその傾向も弱まり、平成になると、また日本酒度がプラスに転じてきて、やや辛い酒が主流になっています。酸度の数値も時代の経過とともに少しずつ小さくなってきています。どうやら、現在は「やや辛」で、すっきりとした味が好まれているようです。ちなみに、花の舞の酒は日本酒度プラス3からプラス5の「やや辛」が主流です。

 さあ、いかがでしたでしょうか。今回の甘口、辛口の選び方。一度びんの裏のラベルをよく見て、日本酒度がプラスの酒とマイナスの酒を飲み比べ、自分には甘辛どちらの味がしっくりくるのか、試してみてはいかがでしょう。

花の舞の裏ラベルの紹介(日本酒度と酸度)

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日本酒豆知識

日本酒の仲間「みりん」を上手に使いましょう。


 この号の「いま、酒蔵では」でご紹介しましたが、日本酒には「清酒」「焼酎」「みりん」の3種類があります。みりんが日本酒の仲間だということを知らなかった人もいるのではないでしょうか。みりんは焼酎やもち米などを原料につくられる混成酒なのです。
 さて、そのみりんには特有のうま味と香りがあり、まろやかな甘みをつけることができるのが特徴です。しかし、使い過ぎると材料を硬く締めてしまいます。魚の煮つけにみりんを使うのは煮くずれ防止のためですし、みりん干しもみりんのこうした性質を利用したものです。
 食材のうま味は本来塩と日本酒で引き出されます。照りやつやを必要とする甘露煮、蒲焼き、照り焼きなどにはみりんをやや多めに使い、その他の料理には、ちょっと甘みが足りないというときに、みりんをプラスすると効果的です。
 アルコールを含んでいるので、長時間煮込むとき以外は、みりんを火にかけてアルコール分を飛ばした「煮切りみりん」にしてから用います。

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知っ得情報「お酒と健康・美容」

アミノ酸あれこれ買うより日本酒飲もう!?


 私たちの身体にはアミノ酸が必要です。アルコール類の中でも特にアミノ酸を多く含んでいるのが、実は、日本酒なのです。
日本酒に含まれるアミノ酸は胃を丈夫にして、食欲を増進してくれます。また、動脈硬化、心筋梗塞、肝硬変、健忘症など、多くの生活習慣病の予防に有効であるということも解明されてきています。
身体のためにサプリメントを用いるのも良いけれど、ちょっと、家にある日本酒を思い出してください。そして、料理とともに軽く一杯、二杯、……。ほろ酔いのいい気分になってリラックス。なおかつ、アミノ酸の恩恵にあずかる。これこそ一石二鳥の健康法ですね。

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連載

遠州産「山田錦」誕生物語り


「静岡山田錦研究会」と「花の舞」連携の記録

連載第4回

第3章 遠州で山田錦づくり始まる

豊岡村で五百万石から山田錦への動き
 豊岡村(現磐田市)の乗松精二(前静岡山田錦研究会会長)が酒造好適米五百万石をつくり始めて3、4年。いっしょにつくる仲間も7人にまで増えた頃、「このまま五百万石をやっていても、他の地域でもつくり始めるだろうから、そう長くはやれないかもしれない。もっといいものはないだろうか」という話が出始めた。そして、「酒米なら山田錦だね。ひとつやってみないか」ということになった。

 山田錦とはどんな品種なのか。外観は米の粒が大きく、その中心の心白と呼ばれる部分も大きいのだが、特徴的なのがその形状で、米粒を真横に切ってみると心白の形はほぼ直線状になっている。つまり、厚みがなく薄いのだ。他の品種、例えば五百万石などの心白が楕円状で厚みがあるのと全く異なっている。この違いは大きい。なぜなら、高級酒ほど精米歩合が40%、45%と高精白(米を削る割合を大きくする)になるが、その際、五百万石のように楕円状で厚みがある心白だと削っていくうちに米が割れてしまう。ところが、山田錦の心白は薄いために削っていっても割れることは少ない。五百万石は吟醸酒のような高級酒づくりには使いにくいが、山田錦は間違いなく使えるのだ。
その他、タンパク質含量が他の品種に比べ最も低い部類に属し、灰分も少なく、糖化しやすい。米質は弾力があり、蒸米の老化速度が遅い。吸収性、消化性がよく、麹菌の繁殖が容易などの特徴があり、できあがった酒は香り、味とも優れたものになることから、高級酒である吟醸酒づくりには欠かせない米と言われている。
花の舞の土田杜氏は山田錦について、「他の米と違って、ぜったい秋から上がってうまくなる。米自体にエネルギーがあります。低アルコールで度数を下げても味が壊れません。いろいろな使い方をしてもいろいろな良さがある。山田錦が持っている素質なんでしょう」と言う。
そんな、酒米の最高峰と言われる山田錦だが、その育て方は他の品種とだいぶ異なり、栽培は難しいと言われている。産地は兵庫県。全国のほとんどの蔵が兵庫県から仕入れている。花の舞も乗松が山田錦をつくり始めた平成七年当時は使用する山田錦のほとんどが兵庫県産だった。

「山田錦はつくってほしくない」に「カチンときた」
 乗松は五百万石を使った地域ブランドの酒づくりで知り合った花の舞の営業部長竹内清司に「山田錦をやってみたいのだが」とその意志を伝えたところ、竹内は「いちど蔵に来て話をしてほしい」と答えた。そこで、乗松は花の舞に行き、製造部長と会ったのだが、「山田錦はつくってほしくない」と言われてしまった。
いきなりの山田錦づくり拒否に乗松は「カチンときた」。しかし、この製造部長の言葉にはわけがあった。実は、すでに花の舞は地元産の山田錦を購入していたのだ。そして、この山田錦のできがすこぶる悪かったために製造部長は地元での山田錦づくりに難色を示したのだ。

 土田杜氏もこの時のことは覚えている。「がんばってつくってみてください、などと無責任なことは言えなかったですし、乗松さんがどんな人かもよくわかっていませんでした。だから、山田錦だけは兵庫産にかなわないからやめておいた方がいいのではないですか。それよりも五百万石をつくってくださいとお願いをしました」。
当時、花の舞では大吟醸にしか山田錦を使っていなかった。まさしく特別な米だったのだ。だから、「兵庫県の特A地区以外でつくられた山田錦は使う気はありませんでした」との土田杜氏の言葉は当時としては当然のことだったのだろう。
そして土田杜氏は10年を振り返って言う。「米づくりのプロに向かって米をつくるなと言ったわけですから、乗松さんはきっとはらわたが煮えくり返ったでしょう。しかし、私たちも酒づくりのプロですから酒については責任がある。そこは乗松さんもわかってくれていたと思います。結果的には乗松さんたちがあのとき、なにくそとがんばってくれたことで、今日があるのだと思います」

都田ではじめてつくった山田錦は不出来だった
 物議を醸した山田錦をつくったのが浜松市都田地区の鈴木良紀(現静岡山田錦研究会会長)たちのグループだった。五百万石をつくり始めてから3、4年が過ぎた頃、鈴木のもとに県の農業改良普及員が農協の担当者といっしょにやって来た。そして、「五百万石より、もっとおいしい酒をつくることができる山田錦という品種があるんです。やってみませんか。私たちも栽培した山田錦を調査させてもらいたいのです」と言った。こうして鈴木たち都田地区のメンバーは山田錦をつくり始めることになった。
 そして、平成6年初めて山田錦を収穫した。しかし、そのできは山田錦の産地である兵庫県産と比べたら雲泥の差だった。特に花の舞では山田錦の中でももっとも質のいい「特」を仕入れていたので、だれが見てもその差は歴然だった。
鈴木は振り返って「等級検査では3等に入ったのですが、今つくっている山田錦の選別した後に残るクズ米よりひどかったですね」。優れた山田錦をつくれるようになった今だからこそ、そこまで言えるのだろうが、つくり始めた当初はそんなレベルの山田錦が花の舞に納められていたのだ。
 「山田錦をつくりたい」と申し出た乗松に対し、製造部長が言い放ったひとこと、「つくらないでほしい」はまったくの本音で、無理からぬことであった。
しかし、乗松にも意地も、自信もある。引き下がることはせず、「山田錦はすぐ今年からつくる。つくってからものを言ってくれ」とたんかを切って花の舞を後にした。
 これは後日談だが、後年、製造部長は乗松に「米づくりのプロに対し失礼なことを言ってしまった」と謝った。製造部長は乗松が当時静岡県稲作研究会の会長を務めていたことを知らなかったのだ。

仲間も増え本格化する豊岡村の山田錦づくり
 乗松は山田錦づくりを豊岡村では1人で始めた。研究も怠らなかった。酒米はタンパク含量がポイントで多いとうまい酒にはならない。花の舞から兵庫県産の「特」を少し分けてもらいその成分を分析してみると、タンパク含量は7.1から7.2%くらいだった。そこで乗松は「それなら、7%切ればいいな。そうすれば兵庫県産より上だ」と目標を定めて山田錦づくりにチャレンジした。
1年目は「まあまあの出来だった」。等級検査は1等。それを花の舞に持ち込むと、製造部長は「これなら使えるかもしれない」と言ったが、「ただ、酒になってみないと分からないな」とも言った。やはり、製造責任者としては不安を隠せないでいた。
2年目からは仲間が増えた。特殊なもち米をつくっていた3人が加わったのだ。このもち米は倒れやすいのでつくりにくい。それが山田錦と似ている。「あなたたちならきっとできるはずだ」と乗松は激励していっしょに山田錦づくりを続けた。

生産者の確保と組織化へ向けて花の舞が動く
 花の舞の製造部長や杜氏など現場で酒づくりを行う者たちが不安を募らせる一方で、営業の竹内は地元産山田錦の量的な拡大を検討していた。その目的は、「地元で山田錦がつくれれば農家も潤うし、花の舞も遠くから高い米を買うよりいい。なにより、地酒メーカーとして地元米だけを使うことはいちばんのウリになり、他社との差別化もできる」からであった。
そこで乗松に「山田錦の普及はどうだろうか」とたずねた。乗松は「これはおもしろいよ」と答えた。竹内はそれを聞いて「それなら生産者の会をつくってみたらどうだろう」と提案したが「それは、まだ早い」と乗松は断った。

 乗松や鈴木たちのように、すでに山田錦をつくり始めている生産者を後押しするとともに、新たに生産してくれる農家を増やすためには説得材料が必要になる。
そこで、花の舞の竹内は遠州地方が山田錦の栽培適地であるのかを確かめるべく山田錦栽培の専門家永谷正治氏に視察してもらうことにした。永谷正治氏は国税局鑑定官室長を退職後、その知識を活かして山田錦栽培のアドバイザーとして各地で指導をしていた。

 酒づくりのエキスパートである永谷氏には以前から花の舞もいろいろと相談をし、アドバイスも受けていた。永谷氏のことを土田杜氏はこう評する。「言うことも、態度も他の人とは全く異質でしたね。全然偉ぶらないで気さくに話をしてくれました」。印象に残る話があると言う。「酒づくりは苦労するべきで、杜氏は吟醸酒をつくるときは不眠不休でやるべき」と、多くの関係者、先生方が言う中、永谷氏だけは「酒は米で勝負が決まる。米を見ないで努力したって意味がない」と語ったと言うのだ。「蔵元醸造家というのは米を見ていない。それで醸造技術の話をいくらしてもいい酒はできない。酒を語る前に田んぼを見てこい」。土田杜氏もそう言われた。

専門家が山田錦の栽培を勧める
 遠州地方の地質や環境全般を調査した永谷氏は「土がいい。天竜川水系が豊富にあり、収穫前に好天が続き日照時間が確保できる。しかも、いい風が吹いて風通しがいい。まさしく、山田錦の栽培適地です」と花の舞に報告した。

 その一環だと思われるが、永谷氏は乗松が五百万石を栽培するたんぼを視察に来たことがある。花の舞の竹内が案内してきた。そのとき永谷氏は「いい田んぼだ、ここなら山田錦もできますよ」と太鼓判を押した。「実はもうつくってみたんですが」と永谷氏に山田錦の田んぼを見せたところ、あっさりと「これじゃ、だめだ」と言われてしまった。そこはれんげをつくっており、山田錦を栽培するには土が肥えすぎていたのだ。乗松が山田錦をつくった最初の年のことだった。
そのときは、県内の他の蔵の人もいっしょに来ていた。「おそらく他の蔵も地元産山田錦を使いたい気があったのでしょう」と乗松は言う。

 その永谷氏を講師として、花の舞は米づくりを行っている農家を対象に、平成8年に講演会を浜北市(当時)で開催した。
竹内は覚えていないと言うが、土田杜氏はよく覚えている。というのも、ちょっとしたハプニングがあった。本来は講演会で五百万石の栽培方法について話してもらう予定だった。ところが、急遽、テーマは山田錦に変わってしまった。永谷氏は集まった農家を前に、遠州地方は山田錦の栽培適地であることを説き、「同じ苦労をするのなら山田錦をやってみたらどうでしょう。農家のためにも、花の舞のためにも、その方がいいと思います」と勧めた。この講演会には乗松も鈴木も参加している。
花の舞の竹内はその後も積極的に動いた。山田錦をつくってくれそうな人の情報を収集しては現地へ赴いた。
そして、乗松のところにやって来て、「この地域にはこういう人がいる、あそこにはだれだれがいる、乗松さんなんとか生産者の会を発足させる方向で考えてくれないか」と、口説いた。週に2回は来ていたと言う。

 その頃の一連の動きを見ていた乗松は「会社として静岡県産の米を使うという方針を固めたのでしょう。そうなると兵庫県産の山田錦ではだめだということになる。そこで、山田錦を100%県内産にしようと腹をくくったのではないでしょうか。そのためには1千俵、2千表を確保しなくてはならない。1人1人口説くのはたいへんだから、まとめて組織化してしまおうというのが竹内さんの考えだったと思います。私たちが参加すれば、それが実現できると思ったのでしょう。だから、組織化に固執したのだと思いますね」と、当時の花の舞の思惑を推測する。
 事実、花の舞は地元産山田錦の質、量の向上をめざし、その後、生産者の確保と組織化へ向けての動きを本格化させることになる。

つづく

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お便り紹介&ご意見・質問募集


月刊「花の舞」を読んだ感想やご意見、土田杜氏への質問などございましたら、どうぞ、お寄せください。
読者の皆様からお便りがいただけるようスタッフ一同(約2名)がんばってやっていきます。

<なんとかお願いします。>

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編集後記


今年も半分が終わってしまいました。まったく、月日の経つのは早いもので、この月刊「花の舞」を担当し始めたことで、ますます、その思いを強くしています。
さて月刊「花の舞」も第4号となりました。
一応、日本酒の基礎知識は多少はあると自負して、担当を始めたのですが、やってみると、分かっていなかったことも多く、杜氏や蔵人、米づくりの「静岡山田錦研究会」のみなさんにはいつも取材でお世話になっています。
この際ですから、酒づくり、米づくりのプロに、改めて、いろいろなことを教えてもらい、それを今後の月刊「花の舞」に活かしていきたいと考えています。これからもよろしくお願いします。(よ)

朝が苦手なばっかりに早朝やっている焼酎の仕込みを生でみることが出来ません(涙)。蔵人の朝はとてつもなく早いのです!ここで白状しますが焼酎の仕込み風景の画像は蔵人にお願いして撮ってもらいました...(て)

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